新たな抗菌薬や検査手法の開発にもかかわらず,世界的にみても細菌性髄膜炎の死亡率は依然として10〜30%と高く,また重篤な後遺症の割合も高いままである.
その理由はいくつかあるが,大きくは2つ挙げられる.その1つには早期診断の遅れがある.細菌性髄膜炎は"neurological emergency"(神経救急疾患)といわれるように,その診断と治療開始は時間単位の対応が求められる.日本では年間約1,500人の患者が発症すると考えられているが,その初期対応の大半は神経関連の専門医以外の一般臨床医が行っているのが現状である.したがって緊急の現場で一般医師がいかに早く細菌性髄膜炎を疑うのかが重要な点になる.その「診断を疑う」ことに引き続いて一定の手順で血液培養から髄液検査,CT,MRIをはじめとした画像検査を経ての適切な診断の確定が求められる.2つ目の理由としては,初期治療の難しさと不適切さなどが挙げられる.これには診断の遅れによる抗菌薬の投与の遅れ,起炎菌同定までのempirical(経験的)な抗菌薬の選択の不適切さ,それに起炎菌同定後の治療対応の不適切さが挙げられる.
これらの問題を解決するために,わかりやすい実用的な細菌性髄膜炎の診断と治療ガイドラインの作成が本邦で長い間求められてきた.このたび,日本神経治療学会,日本神経学会,および日本神経感染症学会の三学会合同によるガイドライン作成の要望がありガイドラインの作成となった.
このガイドライン作成にあたってはいくつかの点を大切にしようと考えた.まず,一般医師にとって実用的でわかりやすい内容にした.また,小児と成人の細菌性髄膜炎はその起炎菌の違いや症状の違いもあり,それぞれを分けてまとめた.細菌性髄膜炎の治療はエビデンスが少なく方針を出しにくいが,可能な限りスタンダードな方針を提示していただいた.このガイドライン作成の主旨は,現状では多くの問題を抱えた細菌性髄膜炎の診断と治療水準の向上を目指すことであり,臨床現場にあって刻々と変わる個々の患者の病態に合わせた臨床家の治療法の裁量権を規制するものではない.
2006年11月
細菌性髄膜炎の診療ガイドライン作成委員会
糸山泰人










